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建築家 潤 の『独断と偏見』

「双龍物語:第五章・幼少期の五・可愛くなかった幼少の潤」

 寒くなり始め、日の落ちるのが早くなる季節であったと記憶している。
学校から帰ってランドセルを放り投げ、友人たちと夢中になって遊んでいたが暗くなってきて皆が口々に「もう帰ろうやぁ」と言い出したので、潤も仕方なく家路に着いた。
両親は共働きなので、この時間ではまだ家に帰っていないことが判っている潤は「やれやれ、家に帰ってから何したらええかのう・・・」と心の中でつぶやきながら「ただいま」と声を出して玄関の引き違い戸を引いて家に入ってみたが「お帰り」の声は無く、家の中は真っ暗である。
「そりやぁそうじゃろうて・・・」と思いながら掘り炬燵に足を突っ込んで少しの間一人茶の間で待っていたが炬燵の中は冷たくて暖が取れない。
自分で練炭に火を熾してみようと考えてはみたが、練炭火鉢は重く、まだ火の扱いが上手く出来ない潤は瞬時にこの考えは捨てた。
止むを得ず火の気の無い掘り炬燵に掛けてある布団から顔だけ出して両親が帰ってくるのを待っていたが、残業にでもなっているのであろうか中々両親は帰ってこない。
暫く辛抱すれども、やはり火の無い炬燵は寒い上に段々と腹も減ってきて「早く帰って来いや!」と叫んでもみたが、野良犬の遠吠えに等しく何らかの良き変化などが起こるはずも無く、ひもじさと寒さで少し涙が滲んできた。
小一時間も経っただろうか、相次いで両親が帰ってきて滋子は「お腹すいたろう・・・直ぐ支度するけえね」と言ってくれたが、その時の両親の苦労など解かるはずも無い潤の口は「いつまでこんな生活が続くんかねぇ」と口にしてしまった。
瞬時に滋子から「何を言うかこの子は!親が一所懸命に働いちょるいうのに!」ときつい口調で言葉が返ってきた。
恐らく親自身が潤と同じような感覚を持っていたのだろうと感じ、少しバツの悪い気持ちでいたところ、夕餉の支度をしながら両親が話をしている中で「○○さんのところがねぇ、・・・」と○○さんの家で起こった大きな不幸について話し始めた。
話を傍で聞いていた潤は思わず「そんなに可哀想じゃ言うんなら、助けて上げたらどうなんね」と口にした。
するとまたもや「何を言うかこの子は!私らぁに助けられるわけがないじゃろう」と又きついお言葉が返ってきたので「助けられんのなら可哀想々言うてもしょうがないじゃあ」とまた余計な口が滑った。
恐らく親にとっては痛いところを突かれた気持ちになったのではなかろうかと想像するが、この時に潤は「ふん、それならワシは大きくなったら助けられるようになってやるわい」とまるで根拠ない妄想を描いたが、その日の夕飯は喉を通り難くまずかった。
しかし、この時にはもう妹と弟が生まれていたはずなのだが、傍にいた記憶が無いから、この日は祖父の家で叔母達に面倒を見てもらっていたのかもしれない。

 夕飯を食べる時に誠はよく戦争の体験談(序章にある不思議な体験に加え、いかに優秀で勇猛な兵隊であったかの自慢話)と聖師「王仁三郎」に纏わる話をしていたが、性格は一概で意固地なところがあり、価値観や考え方の調和が取れず、どこかが欠けているように潤は感じていた。
と言うのも、ある時の夕食が大御馳走のすき焼きで、ワクワクしながら食べ始めた時、野菜籠の中には白菜や大根・葱などの他に春菊が入っていた。
春菊は苦味があるので子ども達は手をつけないでいたところ、誠が潤に「春菊は旨いんだから食べろ」と言いだした。
「これは苦いから食べれん」と言ったところ誠は「こんな旨い物が食べれんのんか」と上から目線(これは親だから仕方が無い)で春菊が食べられないことを卑下したように言ったものだから、そう言われた潤の口から思わず出た言葉「それじゃあ お父ちゃん、お父ちゃんが(「あんた」と言った様な記憶があるのだが)ワシと同じような子供の頃にこの春菊を食べて、これが本当に美味しいと思ったんかいね?」と反論したところ、子供の頃を思い出して美味しくなかったことの記憶が甦ったに違いなく黙ってしまって何も言わなくなった。
潤は「まだ子どもの口じやぁ美味しくないんよ。大人の口になったら美味しいと思うようになるんじゃないかねぇ」と付け加えた。
「あぁ旨かったよ」と言えないところは誠が正直者である証ではあるけれど、自分が良かれと思っていることは見境無く相手に無理やり押し付けるところがあったものだから、潤はこの後も少し苦労をさせられる羽目なるのだが、春菊については三十代辺りから食べて美味しいと思えるようになり、今では鍋物に春菊が無ければ物足らないように感じるまでになりました。

 余談になりますが、誠の珈琲好きは間違いなかったようで、休日の朝は必ずパーコレーターで入れた珈琲とパン食であった。
パーコレーターから漂ってくる珈琲の香は子供の潤にとってもそれは悩ましいほどの良い香がするのだが、いざ口にすると苦くてとても飲めたものではなかったので砂糖を沢山入れて飲んでいたように記憶している。



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