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建築家 潤 の『独断と偏見』

「双龍物語:第五章・幼少期の四」

 このバイオリンを習う教室は同じ村内にあるお寺の一室を提供して行われていて、高齢と思われたバイオリンの先生は他の地域から週一回教えに来ていた。
そこの住職の嫁さんが母「滋子」と同じ小学校の教諭をしていたことからの縁で自分の子供達にも習わせようと思ったようで、嫌々ながら通っていたのだが、ある日のこと習いに行くと、家に入るとたまたま部屋にいた住職が急に呼び出されて部屋(教室ではない)から出て行った。
その部屋はいつも自分達の稽古の順番が来るまでの待機する部屋であつたのだが、たまたま住職が出て行った後の机の上に何やら不思議な道具が残っていた。
2本あるゴムのチューブの先端にはプラスチック製の突起が付いていて、その根元には同じく丸いゴム製の圧縮・吸い込みを行うようなものが付いていて、これは洟を吸い出すものではなかろうかと思った潤は好奇心に駆られて両先端を鼻にあてがい丸い部分を押してみた。
すると鼻の中に何か入ってきた瞬間、これはここの親父(住職)が使ったままが置いてあったんだ、これは何か少し危ないかも・・・と不安が過ったけれど、子供の頃である、大して深刻にも考えず、時が過ぎてゆくと案の定六年後には慢性副鼻腔炎と診断され、手術を受ける羽目になってしまった。
その後数十年の間で計3回副鼻腔炎の手術を行ったけれど、完治に至らず現在も不快な状態が続いているし、数年に一度くらいの割合で、鼻の横が腫上がり猛烈な痛みを生じることがある。。
 子供が大勢やってくる教室なのだから、好奇心でいっぱいの子供は何をしでかすか解かったものではない事くらい、人の道を説く坊さんでもある大人がその配慮すら出来なくてどうする・・・と言いたいが、既に手遅れである。

 丁度同じ頃だったと記憶しているが、潤は誠に犬を飼いたいとせがんでいたところ、二ヶ月程経って職場の部下から貰ってきたのだと、真っ黒い子犬が潤の手元にやって来た。
潤はもう嬉しくて、嬉しくて「クロ」と名前を付け、学校から帰ったら毎日一緒に遊んだ。
そんなある夏休みの日、潤はクロを連れて海を見ようと波止場に出かけていたところへ野良犬がやって来て、クロと喧嘩になった。
潤はクロを止めようと間に割って入り二匹を離そうと手を出した瞬間、野良犬が潤の手の平に横から噛み付いた。
その痛みと思いがけない反逆にあった潤は大声で泣き始めた刹那、傍で雑談をしていた漁師の一人が野良犬の足を捕まえて海に放り投げた。
野良犬は「キャイーン」と声を上げたが「ザブーン」の水音と共に一瞬海に沈み浮かんできた途端犬掻きを始めていたが、潮の流れが激しい海域である(大畠の瀬戸は鳴門に次ぐ潮流の速さで、渦の名所でもある)その後この犬が岸に到着したか潮に流され海の藻屑になったかについては定かでないが、手の甲を見ると犬に噛まれたところは唾液と犬の毛にまみれて穴が開き無残な状況を呈していた。
漁師達は潤の方を見て「ぼくは何処の子かいのぉ~、野良犬に噛まれたんじゃけぇ狂犬病を持っちょったら行けんけえのぉ家に帰ったら親に話して予防注射を打って貰いんさいよ」と言ってくれた。
泣きながら家に帰った潤は家にいた叔母に野良犬に噛まれた事を話すと、叔母は直ぐに近くにある外科の診療所に連れて行き、噛まれた傷の手当と狂犬病の予防注射を依頼した。
幸いこの事故のあとは手の甲に傷跡が残っただけで特別な異常は出なかったが完治まで1ヶ月近くを要したので、大好きな海で遊ぶことが出来ず夏休みが台無しになってしまった。
クロとは二年余り一緒に遊んだけれどもジステンバー(犬特有の風邪)に罹ってしまい、獣医の手当ての甲斐なく死んでしまった。
悲しんだ潤は墓を作ってクロの亡骸を埋めようと、その場所を色々と考えた。
人がよく通るところが良いと聞いた記憶があるから畑に行く途中の道に埋めるのが良いかなぁ・・・・でも道は地面が硬くて自分では掘れないなし、墓標が立てられないからダメか・・・いや待てよ!人がよく通るところが良いというのは確か猫のことだった。
ではどうする・・・と思いあぐねて出した結論は畑の端の方に墓を作ろう・・・であった。
そうすればクロは最後に土に還って行くだろうし、肥料にもなろうと考えて、板切れに「クロの墓」と書き、スコップとクロの亡骸を入れた紙袋を持って畑に行き埋葬したのである。
だが、この後三十二年が経ってから、このクロが何者であったのかを知らされる時が来るのだけれど、この時の潤にはそのようなことなど知る由も無く、ただ悲しい思いだけが暫く続いたのである。



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