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建築家 潤 の『独断と偏見』

「双龍物語:第四章その2」

 そして「滋子」は「長男(潤)」が生まれる数日前から「養育禄」なるものを書き始めていた。

            序 潤ちゃんへ

 自分の生まれた時からの事を大きくなって知る事ができたらどんなに楽しくもあり有意義なことでせう。
本當につたない文で恥ずかしいのですけど此の世に尊い生を受けてからの事を真実そのままにあなたの為に書きしるしたいと思ふのです。
昭和廿四年の一二月二十四日の明け方六時 一番鳥の鳴く勇ましい声を聞きながらあなたは神様の御恵みによって安らかに此の世に の声をあげたのです。(空白部は原文のまま)
         出生地 山口縣大島郡久賀町伺津原
 お父様が日通にお勤めの為 久賀に借家住ひをしてゐました。それは前記の所なのですよ。
そして、あなたには明子(はるこ)といふ一つ年上のお姉ちゃんがありましたの、でも生まれて四日目にすぐ他界してしまいひました。お父さまもお母さまも明子姉ちゃんが亡くなったので早く代わりにあなたが生まれてくるのを待ってゐました。
生まれる時には柳井のお祖母ちゃまがお手傳ひに来て下さっていましたよ。それからすぐ大畠のお祖母ちゃまがお手傳ひなさって下さいました。
お父様はあなたの為に三代様からお名前をいたゞいて下さいました。
そのときのお名前が潤ちゃんなのですよ 若しか女でしたら榮子といたゞいてゐいたのですよ(短冊)。
三代様といふのはね、お父さま、お母さまが日頃信仰させていたゞいてゐる神様(大本愛善苑)のお道の方です。
この方については大きくなってあなたが信仰する様になったらよくわかってくることでせう。
別紙のお名前はあなたの名つけの日 廿八日にお父さまの書いて下さったものなのです。

              「養育禄」

昭和二四年一二月二十二日
 今日があなたの出生日の予定だったのです。お母さんは予定日の近づくにしたがって今日か々と心の中で言い知れない喜びとかすかな不安にて満たされてゐました。御手傳ひの人がないので二十日から柳井のお祖母ちゃんが来て下さってゐました。
予定日も何の兆もありませんでしたが、大部お母さんの体はきつくなって何れ近い内だと思ってゐました。動くほどお産がらくだと云われてゐましたので お母さんは体の調子がよい限り動きました。
今日は予定日でもあるし、あなたの安産を祈って氏神様にお詣りしてお祈りを捧げ お陰をいただいて来ました。

二十四日
 二十三日の夕方から腰のいたみが大部ひどい様でした。お父さんが会社から夕方七時頃おかへりになり お食事をすませた後会社が忙しいため又お出かけになりなり十二時過ぎにおかへりになりました。お祖母ちゃんと三人がつづいてお風ろに入りました お母さんはどうも今日は様子がおかしいと感じがしてゐました。神様の礼拝をすませて就寝しました。
 割合ひに暖かい日で晝間(昼間)の疲れにすぐぐっすり休みましたが 二時過ぎに目がさめてどうも様子がちがふので お祖母さんお父さんに起きていただいて用意をしていただきました。
外は雨が降ってゐましたが 産婆さん(鶴田キチ子)はお父さん達の後二分もたゝぬ間にかけつけて下さいました。お母さんはも一度神言を奏上させていただいて安産をおねがひしました。
その時・5時頃でしたが 何もかも調子よく六時には降っていた雨も上がり空もしらゞと明けて一番鳥の鳴く声と共に勢いよく、産声をあげたのです。
お母さんは只、ぶじかしらとそればかりお祈りしてゐました。やがて産婆さんが男の子であることを知らせて下さり ぶじである事を喜びました。
ちょうど満潮の始めです。お父さん始め皆はあなたの出生を大へんよろこび そのよろこびは言葉につくされず胸一ぱいでした。小ちゃな赤い顔のあなたはやがてお母さんの側にねかせられました 只々、すこやかに発育してくれる様にと願うのでした。
神様に御礼の礼拝をいたしました。
暮れの迫った日に生まれたのでお手傳ひの人がなか々ご苦勞でした。
それから毎日あなたは鶴田さんに産湯をつかはせていたゞいたのです。
大へんに丈夫ですよ、と喜んで下さいました。身長は普通寸より二寸も高いと御言いました。
目方はね、七八〇匁でした。
大へん可愛い顔だちだと云って皆ほめて下さったのよ。あなたの出生を知って数人の人がお見舞いに見えました。又澤山の産着をいただきましたよ。日に々とあなたは調子よく育ってゆきます。

二十九日
 年の暮れで皆忙しいので小沢ミドリ(愛善苑 信者)叔母さんが 柳井から手傳ひして下さったのですよ。又浜田先生(愛善苑 柳井主任)があなたの為にお取次ぎをなさって神様の御恵み多き事を祈られました。いよ々お正月も迫って来て あなたもお母さんもね正月ですよ。

二十八日
 前後しましたが二十八日はあなた名つけの日です。三代様からいたゞいたお短冊のお名前にある通り潤(じゅん)とつけていたゞきました。
神様からいたゞいたお名前です。どうかその御恵みに御礼申して下さい。鶴田さんの家でお祝いに よろ〝こんぶ〟をいたゞきましたよ。

一月一日
 お正月ですね 潤坊と母ちゃんは、ね正月でした。お手傳ひがなか々むつかしいのでね、お晝前(昼前)に柳井のお祖母ちゃまが又来て下さいました。

五日
 産婆さんに今日まで産湯をつかはせていたゞきましたのよ。
大へんに親切な頭のよい方でした。自分を取りあげて下さった産婆さんは あなたの出生に際して又大へんお世話になったんですね。

一月十日
 お父さんは会社が忙しい為殆ど家に居られませんでした。年末年始の御つき合ひも、しばらくしてひまとなりました。そしてゆっくりとあなたを見守って下さいました。お母さんも次第に日立ちがよく、今日頃から起きることにしました。寒い時でしたのでお手傳ひの人も大へんでした。お母さんはあなたの汚れたおむつを洗うのにも云いしれない嬉しさ、とほこりを覺えるのでした。何卆か健やかに成人して下さい。

一月十五日
 日に々太ってゆくあなたの様子にお父様もお母さんも只よろこんでをりました。お顔も生まれた時とは大へんに変わってきました。生まれた時はお母さんによく似てをった想です。今まで気づかない事でしたが あなたはお顔も大へんよく調ってよい子ですのに お耳が一寸両方がそろひませんでした。誰でも両方揃ってゐないのですが あまりひど過ぎるのです。お耳ですから気をつけて見なければわからない事ですが 一寸気になりました。
産婆さんも外入(とのにゅう・大島の南の方に位置する地名)の叔父、叔母(滋子の姉)さん達も大した事ではないですよ、心配は入りませんと御言って下さいました。お母さんはその時始めて、あなたの幸福を自分の体で代わることが出来るならどんなにでもしてあげたいと思ひました。早速にとりかえへられるものなら型のよいお母さんの耳ととりかへてやるのにと思ふのでした。別に気にして悩む程の事でもないのですが やはりお母さんは人の顔を見ると一番先に耳が目につくのでした。いろ々と見ましたが皆種々様々でずい分ちがった人もありました。あなたのは小さい気づかいでなければ別にわからないのです。
神様の教えにある様に現実は現実ですから それを悔いては発展がありません。大きくなるにしたがって少しでも型がよくなりますように神様お守り下さいませ。ついでにお揃いしてよかったらよいでしたのにやっぱりお母さんの心はいたみました。あなたにお乳を含ませる毎に神様の祝福あらん事をお祈りするのでした。
型が悪いからと云って気にしないで下さい。お母さんは只それがあなたへのおねがひであり、お詫びなのです。別に悪い事したわけでもありません。神惟のまゝに出来た事です。何卆か何物をも恨まず気にかけぬ子になって下さい。
人間は型ばかりで人格が決まるものではありませんからね。あなたのお父さんは日米戦争の為  
にフイリッピンで負傷され片腕を殆ど切断されました。片のつけねから十糎ばかりのこってゐるだけで役に立ちません 用を達せられるのに御不自由で本當に気の毒です。それでもよい心の人ですから毎日を楽しく有意義に過ごされます。あなたも大きくなったら神様の御恵みを享けられます様御信仰して下さい。

二月二日
 まだゝ寒いので床の中で安らかに眠ってゐます。
七日目に始めて涙を流して泣いていましたよ。

二月二十日
 どうやらお目めが見える様でした。鶴田さんがいらっしゃって あなたの成長をよろこんで下さりました。あなたはお目めが見えるのか笑ってあいそをしてゐました。可愛い顔でしたよ。

三月一日 初詣で
 日ざしも一日々と のどかになって参ります。今日は大畠のお祖母さんにおぶさって氏神様にお詣りして あなたの健やかに成長せられん様お願ひしました。これは本當を申しますと三十三日に氏神様にお詣りするのが本當なのですが あなたはちょうど寒い時生まれたので今日までのばしてゐたのですよ。
 お詣りの行きしも帰へりしも よくねんねしてゐました。

三月三日
 今日はあなたの初旅でした。
大畠へ帰へると、おぢいさんが大へん大きくなったのによろこばれました。あなたは笑って おあいそしてゐました。澤山のお姉ちゃん達にだっこしてもらって笑ってゐました。お母さんは初めておんぶするのであなたの鼻がつまりはしないかと心配でしたよ。
三日・四日・五日、と柳井の土井さんのお宅で愛善講話があったのをおききしに行きました。
柳井のおばあちゃんも小沢さんも大きくなったのにびっくりしていらっしゃいました。

三月八日
 久賀へ帰る。少し風邪を引いていた様です。
 夜中にあなたは一人が起きて大きな声を出して笑ってるものですからお父ちゃんがびっくりして起きられました。そして〝何だ 潤坊か 何かと思ったよ〟といって又やすまれました。
 あなたはほんとうに可愛い子ですよ。誰も居ないのにあなたが一人目をさまして あ・・・・・
 や・・・とひとり言を云っていると お母さんはうれしいやら お利口してゐかるのに かわいそうな程でした。此の頃はおめがよく見え、ひとり言がしゃべれて面白くなりましたよ。
 お父ちゃんが おもちゃを買って来て下さいました。
 がら々と廻る ねてみるおもちゃですね。あなたは鈴が鳴る音につれて一生けんめいに眺めていました。

三月二十日
 お母さんが虫下し飲んで腸をこはしてしまった為 あなたに牛乳を飲んでもらひましたが その後がどうもよいお便所でないのですよ。
 奇応丸といふお薬をお父さんが買ってきて下さったので ずっと飲んでいますよ。腸はなか々よくならないですね。

三月二十七日
 発育が目立たぬ様になったと思いますよ 時期ですか、腸が調子悪いためですか、早く良くなるようにお薬をあげてゐます。
 明日は げんのしょうこ を少し飲んでみませう。

四月二日
 今日は貴方の百日でした。神様にお礼の礼拝をし、あなたの幸福をおねがひ致しました。
 腸が悪かって一寸 太り目が見えませんでしたが 大部よくなって参りましたよ。



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