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建築家 潤 の『独断と偏見』

「双龍物語:第二章・帰還 その4」

 毎日々退屈な日を過ごしていたけれども、様々な手続きが終わり、やっと開放されることになった誠は帰省に掛かる費用だとして日本政府から一時金を支給され、帰省できる日がやってきた。
帰省日には、逸る気持ちからか数日前から身の回りの物を整理して準備を整えていたが、持ち物といってもほんの僅かで、戦時中に使用していた飯盒や支給された衣類など纏めていたものをリュックに入れた程度であった。
帰省当日の朝にはお世話になった方々全員を訪ねて丁寧に御礼を述べた後、仲良くして貰っていた数名に見送られて、気が逸るのか汽車の出発予定時間よりも随分と早くに駅へと向かった。
乗車予定の列車がプラットホームに到着するまでの時間が本当に長く感じられたが、列車が着く頃には次々と乗客が集まってきていて、プラットホームは人で溢れ返るほどになっていけれども、早くに駅まで行き待っていたことで何とか座る座席を確保できたことは幸いであった。
利き腕を失った誠にとっては様々な日常の動作に何かと不便や不都合を感じていたのだが、列車の中でも直ぐにそれが起こった。
 僅かな荷物だけれども網棚に上げることが叶わないので、止むを得ず膝の上に乗せての旅となったが、結果的には防犯と居眠りの枕代わりとなってくれたので返って幸いしたようである。
何度か乗り継ぎながら山口県を目指しての汽車の旅は買い出しの乗客などで、いずれも超満員であったけれども再び生きて家族に会える喜びから苦痛に感じることはなかったが、帰省の途中で何より先に「聖師さん(王仁三郎)」にお会いして御礼を申し上げなければ・・・の想いが強く誠の心を揺さぶったのだが、迷いに迷った挙句に出した結論は、まず家族に顔を見せて無事帰還できたことの報告をした後、少し落ち着いてから身なりを整えてご挨拶を兼ねた御礼に伺うことにしようと予定を立てたようである。
と言うのも出征前に「命だけは助けてあげる」と約束してくれた「聖師さん」は私が死んでいないことはきっとご存知のはずだから、まず家族の方を優先しようと身勝手な推論を組み立てたということであろう。
そのような想いの中、数日掛けた汽車の旅は最後の乗り換え場所である広島駅に着き、乗り次いだ列車は岩国駅を経由して、そこからは懐かしい瀬戸内の海や島々を車窓に見ながら誠を運ぶ役目を終えた山陽本線下りの列車は山口県大畠駅へと到着した。
 
 やっとの思いで生まれ故郷の駅に降り立った誠が大きく息を吸い込んで目を瞑ると、少し遠い記憶にあった潮の香と磯の香とが入り混ざった何とも例えようのない懐かしい香が誠の幼少の頃からの記憶を呼び覚まし、走馬灯のように、あの磯でサザエを取った、そこの波止場ではよく釣りをしたなぁと、思いを浮かべ心に安堵と感謝の気持ちを生じさせたが、直ぐに我に帰り、早く家に帰らなければとホームを渡り、改札口を出て駅前にある家へと向かった。

 丁度その頃に家では母ヲトミが急に何かに取り付かれたように「誠が帰ってきた!誠が帰ってきた!」と喚き始めたものだから妹達は何が起こったのかと玄関の方を見れども誰もいないので、誠のことを心配する余り、気が変になったのではないかと思ったと言うのだが、その数分後に誠の姿が幽霊の如く、す~っと玄関に立っていたのである。




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